負けても笑い飛ばせる芯の強さ
頭をガツンと殴られたような衝撃。
8ヶ月ぶりに出会った、無精髭と長く束ねた髪がトレードマークの男は、流暢な英語でその場を完全にコントロールしていた。
それは、汚いフレーズを2、3個覚えただけのメッキ仕様の英語ではない。
内には強固なコミュニケーションスキル、発言回数が少ない者へ質問をする、気遣いが見受けられた。
一体、ここにたどり着くまで、どれだけの失敗をしたかは計り知れない。
しかし、負けても笑い飛ばせる彼の強さが、飛躍的に英語力を成長させた要因かもしれない。
英語を喋りたいと思ったきっかけは何でしょうか?
僕は日本とエジプトのハーフとして産まれ、家族で海外に行くこともありました。
その際に、父の友人が「息子を紹介してくれよ」と言って、僕が英語を喋れるもんだと思って話しかけてくるんですが、家族で一人だけ英語が喋れない僕は、それが嫌でたまりませんでした。
常に、「俺に話しかけるなオーラ」を発してたと思います。(笑)
ある日、”How are you?”と聞かれ、変な回答をしてしまって、周りの人がみんな笑ったんですね。
もちろん、”I’m fine.”程度の返答は知っていたんですけど、いざ英語で来られた、頭が真っ白になりました。
なので、英語を喋りたいと思ったきっかけは、自分のためでなく、家族に恥をかけたくない。
「こいつ(息子)だけ英語喋れないんだ、ごめんな」って伝えられるのも悔しかったんです。
なるほど。フィリピン、オーストラリアの二カ国留学でフィリピン留学を経験して良かったですか?
基礎となる英語力をTARGETで学べたのが、本当に大きかったです。
僕の場合、TARGETに入学した当初は、”How are you?”から全く進歩はしていなくて、英語力はゼロ。レベルも1番低いLow-Beginnerでした。
本音を言うと、ローレンスって名前だけで、「英語喋れるんじゃないの?」って思われる事もあり、英語を喋りたい気持ちはあっても、日本人の生徒の前で英語を喋るのは嫌でした。
ただ、マンツーマンの個室は、先生との距離も近かったので、失敗を怖れずに喋れたのが良かったです。
簡単な単語を増やしたり、授業中に言えなかったことをメモして、部屋に帰ってからすぐに調べて、次の日にすぐ使う。完璧なグラマーでなくても、「先生に伝われば良い」と思って、とにかく基礎とスピーキングを勉強しました。
休憩時間や放課後に、講師とのコミュニケーションを多く取っていましたが、どのようにして彼らと打ち解けましたか?
授業後は「疲れたから日本語喋りたい」と誰しも思います。
同時に、先生も授業後は疲れているので、文法など英語に関する質問はせず、週末は何をしてたのか、恋愛の話しや、家族の写真を見せたり、教科書にはない、授業以外の話をして、感情を共有するようにしました。
オーストラリアに到着後に感じた、フィリピンとの違いは何でしょうか?
フィリピンに留学していた頃は、先生は僕に合わせてゆっくりと喋ってくれていましたが、オーストラリアで最初に感じたのは、「英語は喋れて当たり前だろ」と皆(オーストラリア人)が思っている事です。
ゆっくり喋ってくれる人もいないので、YES、YESと言い続けている内に間違った方向に話しが進んでしまう事もあり、YESマンをやめました。
相手の話している事が分からなかったら、”Sorry, I don’t know what you mean.”と、素直に聞くよう心がけました。
話しが知らない間に進んでしまう苦い経験はよく分かります。仕事はどのようにして、見つけましたか?
(オーストラリア到着時) お金が全然無かったので、仕事はすぐ探さなければ生きていけない状況でした。
「日本人がいない環境で働く」と決めていましたが、自分に言い訳をし、日本食レストランで働く事も検討していました。
しかし、「これじゃ、絶対ダメだ」と思い、道端で会った人や、バーで出会ったワーカー(1)に人を紹介してもらったり、運良く建設現場での仕事を手にしました。
100%英語を使う職場環境となりましたが、そこで得た経験はどのようなものでしょうか?
建設現場の同僚は、チャイニーズ、コリアン、スパニッシュ、オージー(2)…様々な国籍がいるなか、日本人はめったにいません。
なので、「何で日本人がこんな所で働いてるんだ?」とよく聞かれ、話のきっかけは多く作れました。
スピーキングはもちろんですが、リスニング能力が格段に向上しました。
また、一つの仕事をするにしても、日本人というアドバンテージは大きかったです。
引渡し前に、クライアントの方が最後に検査する際、「君は日本人だから、全部大丈夫。」と少々過度な信頼を得る事も多く、逆にオージーや、他の国のワーカーだと”Please make it sure”.と、検査も厳しくなる傾向がありました。
オーストラリアでは、外国人と日本人との交流会をオーガナイズしていましたが、どのような方が参加していましたか?
お客さんは、オージーと日本人が中心です。
オージーと言っても、白人もいれば、オーストラリアで生まれた台湾人、中国人、外見は違うけどオージーの方もたくさんいました。日本人は留学生やワーホリ中の方が中心となります。
日本人のお客さんは、「友達がいない」「外国人ともっと交流したい」「英語環境をもっと作りたい」という悩みを抱えていて、僕も同じように悩んでいた時期があったので、それを解消するために、イベントを主催しました。
オーガナイザーという立場上、色んな相談を受けたと思います。その中で印象的な出来事を教えて下さい。
お客さんの中に、オーストラリアの語学学校に通っている女性がいて、彼女も留学当初の僕と同じように、「先生と一対一で話すのは怖くないが、日本人の前で英語を喋るのが怖い」という悩みを持っていました。
というのも、グループクラスで答えを間違えた際に同じ日本人のクラスメートに「あ、あいつ、間違えた」と、揚げ足をとられる出来事があったようです。
確かに「自分の方が英語力が高い」と、優越をつけたい感情は、多かれ少なかれ、皆持っていると思いますし、僕も持っていました。
では、その悩みに対し、どのようなアドバイスをしますか?
僕は、オーストラリアに行くまで、ネイティブであれば、誰もが完璧な英語を喋ると思っていました。
しかし、オージーであっても、先生でも、人は誰でも間違えます。
陳腐な表現に聞こえますが「間違えることを怖れないこと」が重要だと思います。
間違えを怖れずに勢い良く喋ってると、揚げ足をとりたがる人も黙るので、伸びしろは大きいと思います。
日常会話において、かなり高い英語力を身につけましたが、どのような勉強をしていましたか?
日常会話の表現や会話速度の向上については、「How I Met Your Mother」というドラマを見て、字幕を見ながら、再生と一時停止を繰り返し、単語の意味を調べていました。
単語も意味だけを調べるのではなく、「単語 使い方」とインターネットで検索して翌日、それを友達にすぐに使うという流れです。
オーストラリアは、教科書の中にない、欧米圏独特の言い回しなどを試せる場所があるのが魅力です。
留学を検討しているが、英語が全くの初心者で、なかなか一歩踏み出せない方へメッセージをお願いします。
英語を学ぶ目的に、TOEICやIELTSなどもありますが、大半の人は話すためだと思います。
英語は、他の国の人と繋がる事ができ、自分の世界が大きく広げる事もできます。
日本に帰った時、友達の前などで英語を喋る、成功した自分の姿を想像しながら、楽しく、いっぱい間違えて、難しく考えずに勉強できれば、良いのかなと思います。
ご家族の前で英語を話して、びっくりさせたいと話していたローレンスさん、8ヶ月ぶりに会った先生達がその成長に驚いていたように、ご家族もきっと喜んでくれることでしょう。これからも挑戦を続けてください。
(1) 工事現場などで働く作業員
(2) オーストラリア人の名称